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雇われケアマネだったころの昇給を、僕は覚えていません。
月1,000円ほど上がった年があったような、なかったような。その程度の記憶しかありません。当時は「こんなものか」と思っていましたが、独立して居宅介護支援事業所を経営してみて、理由がはっきりわかりました。
ケアマネの給料が上がらないのは、事業所がケチだからでも、業界が遅れているからでもありません。売上の構造そのものに天井があるからです。
この記事では、一人ケアマネの売上を実際に全部計算して、給料が上がらない構造を数字で示します。そのうえで、「給料」ではなく「収入」を増やす選択肢まで紹介します。
この記事でわかること
- 給料が上がらない理由=客単価と客数を国が決めている構造
- 一人ケアマネの売上の天井(月52.8万円→実質年500万円)
- 処遇改善加算と特定事業所加算の現実
- 給料の天井を越えて、収入を増やす5つの選択肢
結論:給料は構造的に上がらない。でも、収入は増やせる
先に結論です。
ケアマネの給料には、構造的な天井があります。売上は「客単価×客数」で決まりますが、ケアマネの報酬(売上)はその両方を国が決めています。1件あたりの報酬(単位数)は告示で固定され、担当できる件数にも上限がある。どれだけ頑張っても、売上の最大値が最初から決まっている商売なんです。
雇われていたころ、昇給を覚えていないのは、事業所が渋っていたからではなく、渡せる原資がそもそも増えない構造だったから。経営する側になって計算したら、それが数字で見えました。
ただし、悲観する話で終わらせるつもりはありません。給料の天井と、収入の天井は、別の話です。給料を上げる方法には限界がありますが、収入を増やす方法はいくつもあります。後半で説明します。
なぜ上がらないのか|客単価も客数も、国が決めているから
普通の商売なら、売上を伸ばす方法は2つあります。単価を上げるか、客数を増やすか。ケアマネの仕事は、この両方に制度がフタをしています。
まず単価。居宅介護支援費は要介護1・2で1,086単位、要介護3以上で1,411単位と告示で決まっています。単位に地域単価を掛けたものが1件あたりの売上で、値上げという概念が存在しません。利用者さんに多く請求することも、質の高い支援だから割増、もできません。
次に客数。ケアマネ1人が担当できるのは44件までで、45件目からは1件あたりの報酬が下がる仕組み(逓減制)になっています。ケアプランデータ連携システムの活用と事務職員の配置という要件を満たせば49件まで広がりますが、それでも上限は上限です。

つまり、単価×件数の掛け算の答えが、制度によって最初から決まっている。ここがケアマネの給料の話の出発点です。
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
一人ケアマネの売上を、全部計算してみる
では実際に、天井まで働いたらいくらになるのか。一人で居宅介護支援事業所をやっている僕のモデルで計算します。単価は全国の間を取った代表値(3級地・要介護1・2で1件あたり約12,000円)を使います。
- 売上の上限:約12,000円 × 44件 = 月 約52.8万円
- 経費:家賃・光熱費・介護ソフト・通信費・PCなどの積立で、ざっくり月10万円
- 残り:月 約42.8万円(ここから税金・社会保険料が引かれます)
年に直すと約513万円。実質、年500万円が天井です。
正直に補足すると、この計算は「44件を要介護の利用者さんで満たし続ける」前提です。実際には要支援の方も混ざりますし、要介護だけで44件を持ち続けるのは相当大変です。つまり現実の数字は、この天井よりさらに下になることが多い。
要介護3以上(1件約15,000円)の割合が高ければもう少し上がりますが、それも国が決めた単価×44件という掛け算の内側の話。青天井にはなりません。
そして、ここが大事なところです。雇われケアマネの給料は、この売上からさらに事業所の経費や取り分(家賃・管理部門の人件費・法人の利益)が引かれた残りから支払われます。経営側で計算しても年500万が天井なのだから、雇われの給料がそれより低くなるのは、構造の帰結なんです。
処遇改善加算の現実|僕の実額は月8,929円
「2026年6月からケアマネも処遇改善加算の対象になったから、これからは上がる」という説明を見かけます。半分は本当で、半分は期待しすぎです。
僕の事業所も2026年6月分から算定していますが、実額は月8,929円(加算率2.1%・僕の地域の実単価10.42円ベース)。ないよりずっといい。でも、給料の構造を変える金額ではありません。
ちなみに、検索上位に出てくる大手メディアの記事には「ケアマネは処遇改善加算の対象外」という施行前の古い記述が残っているものがあります。制度は動いています。実際のレセプトでいくら乗ったのかは、こちらで全部公開しています。
▶ケアマネの処遇改善加算はいくら?一人居宅の僕は月8,929円|2.1%の計算をレセプトで確認した
唯一の単価アップ手段|特定事業所加算と、そのリスク
固定された単価を上げる方法が、実はひとつだけあります。特定事業所加算です。区分に応じて、利用者1人あたり月の単位数が上乗せされます。
- 特定事業所加算(Ⅰ):519単位(3級地換算で1件あたり月およそ5,700円)
- 特定事業所加算(Ⅱ):421単位(同 約4,700円)
- 特定事業所加算(Ⅲ):323単位(同 約3,600円)
- 特定事業所加算(A):114単位(同 約1,300円)
(Ⅲ)〜(Ⅰ)なら44件で月15万〜25万円規模の増収です。
ただし、タダで乗る加算ではありません。常勤専従の主任ケアマネの配置をはじめ、人員・体制の要件がいくつも積まれています。僕のような一人事業所は、人員要件の入口で対象外です。
そしてリスクもセットです。要件を満たさなくなった月から算定はできず、満たさないまま算定を続けていた分は過誤調整(返還)の対象になります。事業所として「取りに行くか」は、増収と管理コスト・返還リスクを天秤にかけた経営判断です。
雇われの立場から見るとどうか。特定事業所加算を算定している事業所は、その分だけ職員に還元できる原資を持っています。もし特定事業所加算なしの事業所で相場より高い給料が出ているなら、それは併設の他事業からの還元なんだと思います(ここは僕の推測です)。給料の原資がどこから来ているかを考えると、職場選びの見え方が変わります。
そしてもうひとつ、単価の話には裏側があります。報酬が一切つかないのに、ケアマネの仕事とされているものがあるということです。住宅改修の理由書がそれで、書いても基本報酬の中、別途費用を徴収することもできないと通知に明記されています。
▶ 住宅改修の理由書、ケアマネが書かなきゃダメ?|11年で1回しか書いていないやり方
給料の天井と、収入の天井は別|5つの選択肢
ここまでが「給料は構造的に上がらない」の説明です。ここからが本題です。給料を上げる方法には天井がありますが、収入を増やす方法はいくつもあります。
- ① 特定事業所加算を算定している事業所へ転職する:還元の原資がある職場を選ぶ、いちばん現実的な方法です。
- ② 管理者・指導ポジションに就く:主任ケアマネを取って役職手当を乗せるルート。主任の年収の実額はこちらに書きました。
▶主任ケアマネの年収はいくら?数字がバラバラな理由と、雇われ・独立の両方を経験した僕の実額 - ③ 独立して、ケアマネを雇う側になる:44件の上限は「ケアマネ1人あたり」の数字です。ケアマネを雇えば、その人の担当分も事業所の売上に加わるので、自分1人の天井を超えて売上を伸ばせます。
▶ケアマネが独立するために必要なこと【完全ガイド】|居宅介護支援事業所を立ち上げた僕の実体験 - ④ 訪問介護などを併設する(起業):居宅単体の天井の外に、別の収益の柱を立てる方法です。
- ⑤ 今の環境のまま、副業・バイトをする:認定調査など、ケアマネの資格と経験がそのまま単価になる仕事があります。
▶ケアマネは副業できる?雇われ時代に月3万稼いだ僕が、認定調査の『本当の話』までします
5つに共通するのは、今の自分に「+α」の付加価値が必要だということです。同じ場所で同じ働き方を続けて昇給を待つのは、構造上いちばん分の悪い戦い方です。そして、すでに持っている付加価値を評価してくれるところに移るのが、実はいちばん手っ取り早い。
まとめ|僕は「収入そこそこ・自由」を選んだ
整理します。
- ケアマネの売上は客単価×客数の両方を国が決めていて、構造的な天井がある
- 一人ケアマネの天井は月52.8万円・実質年500万円。雇われの給料はそこからさらに低くなる
- 処遇改善加算は月8,929円。特定事業所加算は増収になるが、人員要件と返還リスクがセット
- 給料の天井と収入の天井は別。付加価値を軸にすれば選択肢は5つある
僕自身の選択は、独立+副業でした。収入はそこそこ。その代わり、自分の責任の範囲で、働き方を自分で決められる。給料の天井を知ったうえで、何を優先するかを選んだ結果です。
あなたがもし「今の職場では、頑張っても原資がない」と感じているなら、それはあなたの働きの問題ではなく、構造の問題かもしれません。特定事業所加算の有無や併設事業など、還元の原資がある職場かどうかは、転職エージェントに聞けば具体的に比べられます。
※レバウェル介護の対応エリアは北海道・宮城・東京・神奈川・埼玉・千葉・愛知・静岡・大阪・京都・奈良・兵庫・広島・福岡です(派遣はエリア内からの応募のみ対象)。