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2024年4月から、居宅介護支援事業所が要支援の利用者さんと直接契約できるようになりました。いわゆる「介護予防支援の指定」です。
制度の解説記事は、探せばいくらでも出てきます。指定のメリット・デメリットを整理した記事もあります。でも、実際に指定を取って、直接契約で2年間回した話は、探しても出てきません。
僕は独立3年目の主任ケアマネで、一人で居宅介護支援事業所を経営しています。介護予防支援の指定は、制度が始まった2024年4月とほぼ同時に取りました。いま担当している要支援の利用者さんは30件ほど。そのうち10件ほどが直接契約です。
先に結論を言うと、僕はすべての居宅に、指定の取得をすすめます。ただし、世の中の解説記事に書いてあることと実際が違った点が2つ、そして誰も書いていない落とし穴が1つありました。
この記事では、制度の前提を3分で押さえたうえで、指定を取った理由、申請の実際、2年回した実録、通説とのズレ、落とし穴まで、全部話します。
【3分で前提】2024年4月から、居宅は要支援と直接契約できるようになった
まず前提だけ、最短で押さえます。すでにご存じの方は、ここは飛ばして次の見出しからどうぞ。
何が変わったのか
要支援の方のケアプラン(介護予防支援)は、これまで地域包括支援センターが担当するか、包括から委託を受けた居宅介護支援事業所が担当する仕組みでした。2024年4月の介護保険法改正で、市町村から「介護予防支援」の指定を受けた居宅は、包括を経由せず、利用者さんと直接契約してケアプランを作れるようになりました。
対象は「介護予防支援」だけ。総合事業のみの人は対象外
ここが一番間違えやすいところです。直接契約できるのは、訪問看護や福祉用具貸与などの介護予防サービス(予防給付)を使っている方だけです。総合事業のサービスしか使っていない方のケアマネジメント(介護予防ケアマネジメント)は、これまでどおり包括の担当で、居宅が受ける場合は包括からの委託になります。
つまり、同じ要支援の利用者さんでも、使うサービスによって契約の相手が変わります。これが、あとで話す「落とし穴」につながります。

報酬は、直接契約のほうが高い
| 包括(または包括からの委託) | 指定を受けた居宅の直接契約 | |
|---|---|---|
| 介護予防支援費 | 442単位 | 472単位 |
| お金の流れ | 包括が受け取る。委託の場合は、そこから委託料が居宅に支払われる | 472単位がまるごと自事業所に入る |
数字の上では30単位の差ですが、実際の差はもっと大きくなります。委託の場合、包括が受け取った報酬から委託料が支払われる仕組みで、満額が居宅に入るとは限らないからです。直接契約なら、472単位が全額、自分の事業所の売上になります。
なお、この指定は保険者(市町村)ごとに受ける必要があります。市外の要支援の方を担当する場合は、その方の保険者の指定を取るか、従来どおり委託で受ける形になります。
僕が制度開始と同時に指定を取った理由は3つ
僕が指定を取ったのは、制度が始まった2024年4月とほぼ同時です。迷いはほとんどありませんでした。理由は3つです。
理由① 報酬が上がる
さっきの表のとおり、委託でもらうより直接契約のほうが報酬は高くなります。やっている仕事はケアプラン作成とモニタリングで、中身はほぼ同じです。同じ仕事で入ってくるお金が増えるなら、取らない理由がありません。
この報酬の話には、2026年6月から続きができました。処遇改善加算(2.1%)は、指定を取って請求している予防プランには乗り、包括からの委託分は自分のレセプトには乗りません。実額は別の記事で公開しています。
▶ ケアマネの処遇改善加算はいくら?一人居宅の僕は月8,929円|2.1%の計算をレセプトで確認した
理由② 包括とのやり取りコストが、ずっと無くなる
実は、僕にとって一番大きかったのはこれです。
委託で要支援を担当すると、ケアプランやサービス評価表を地域包括支援センターにチェックしてもらう必要があります。実績も包括に渡さなくてはいけません。自治体によってはオンラインで完結しますが、そうじゃない地域も多い。プランや評価表を包括に持参して、その場でコメントをもらう——このやり取りが、委託契約の高いコストです。
直接契約なら、このやり取りが丸ごと無くなります。給付管理も自分の事業所で完結します。最初の契約手続きは確かに手間です。でも、手間は一回きり、コスト減はその後ずっと続きます。
理由③ 要支援は、未来のロイヤル顧客だから
僕は要支援の利用者さんを「要介護の見込み客」だと考えています。いま要支援の方は、時間の経過とともに要介護に移行していく可能性が高い。そのとき、ゼロから信頼関係を作るのではなく、要支援の段階から伴走してきたケアマネがそのまま担当する——利用者さんにとっても、事業所の経営にとっても、これが一番自然な形です。
この「要支援=見込み客」の考え方は、担当件数の記事で詳しく書いています。
▶ ケアマネの担当件数、何件が限界?60人担当している僕が「きつさの正体」を話します
申請は、拍子抜けするほど簡単だった
「指定申請」と聞くと、書類の山を想像するかもしれません。僕もそうでした。でも実際は、拍子抜けするほど簡単でした。
僕の自治体の場合、申請書類のテンプレートが自治体のサイトで公表されていて、提出はオンラインで完結。間違いがあれば、オンラインで「ここが違います」とピンポイントで指摘が来るので、修正して再提出するだけです。窓口に呼び出されることも、書類を郵送で往復させることもありませんでした。
ひとつ注意点があります。申請の手順や書類の様式、オンライン対応の有無は自治体によって違います。手数料がかかる自治体や、審査に数ヶ月単位のスケジュールを組んでいる自治体もあります。
ここで、ちょっとしたAI活用のコツをひとつ。GoogleのAIモードや、ChatGPTなどのAIに、こう聞いてみてください。
コピペ用プロンプト
「〇〇市で、居宅介護支援事業所が介護予防支援の指定を受けるための申請手順・必要書類・手数料・提出方法を、市の公式サイトの情報をもとに教えてください」
自治体のサイトは、目当てのページにたどり着くまでが一苦労です。AIに先に整理させてから公式ページを開くと、確認があっという間に終わります。ただし、制度やお金にかかわることなので、最後は必ず自治体の公式ページで原文を確認してください。AIの回答は古い情報が混ざることがあります。
それでも、居宅介護支援事業所の指定をすでに持っている事業所なら、求められる書類の多くは手元にあるものの流用で済みます。「申請が大変そうだから」という理由で見送るのは、もったいないと僕は思います。
2年回した実録:要支援30件、うち直接契約は10件
ここからが、この記事の本題です。指定を取って2年、実際にどうなったか。
僕がいま担当している要支援の利用者さんは30件ほど。そのうち直接契約は10件ほどで、残りの20件は包括からの委託です。
10件という数字に、戦略はありません
「どうやって直接契約を増やしたんですか」と聞かれそうですが、答えは拍子抜けするものです。利用者さんのニーズが、そのまま件数になっただけ。
さっき書いたとおり、直接契約できるのは介護予防サービス(予防給付)を使っている方だけです。福祉用具や訪問看護を使う方は直接契約に、総合事業のデイやヘルパーだけで生活が回っている方は包括からの委託のまま。こちらが選別しているのではなく、その方の暮らしに必要なサービスが、契約の形を決めているだけなんです。
「自費ベッドの方が、直接契約になった」実例
切り替えの実例をひとつ。委託で担当していた方で、ベッドを自費でレンタルしていた方がいました。要支援の方は、特殊寝台(介護ベッド)が原則として保険給付の対象外だからです。
その方の状態が変わり、例外給付という仕組みで保険でのベッド貸与が認められることになりました。福祉用具貸与は予防給付ですから、この瞬間、この方は「総合事業のみ」から「介護予防支援の対象」に変わります。つまり、直接契約に切り替えられるということです。
本人とご家族、そして地域包括支援センターに目的を説明して、三者で契約を結び直し、うちの事業所がケアマネジメントをすべて担う形にしました。切り替えの手続きは正直、手間です。でも、その後の包括とのやり取りコストがずっと無くなることを考えれば、手間ではなく、チャンスです。

三者契約と包括の同行——僕の地域の運用
ここで「三者契約」という言葉が出てきたので、説明しておきます。
僕の地域では、直接契約をするとき、利用者さん・うちの事業所・地域包括支援センターの三者で契約を結び、契約の場には包括の職員さんが同行します。担当している直接契約のケースは、すべてこの運用です。
三者で契約しておく理由は、要支援の方のケアマネジメントが、使うサービスによって「介護予防支援(うちが直接)」と「介護予防ケアマネジメント(包括から委託)」を行き来する可能性があるからです。あらかじめ三者で契約しておけば、切り替えのたびに契約を結び直す手間が減ります。
ひとつ注意してほしいのは、この運用は保険者(市町村)によって違うということです。三者契約を推奨する自治体もあれば、すでに委託で担当している方については三者契約を不要とする自治体もあります。あなたの地域で指定を検討するなら、保険者の案内を確認してください。

解説記事と違ったこと2つ
ここが、この記事で一番伝えたいところです。指定について書かれた解説記事はたくさんあります。でも、実際に2年回してみて「これは書いてあることと違うな」と感じた点が2つありました。
違い① 「契約し直す手間がなくなる」は、半分だけ本当
制度改正のメリットとして、多くの記事にこう書かれています。「要支援から要介護に移行するとき、契約をし直す手間がなくなる」と。介護ソフト会社の解説記事でも、利用者・家族のメリットとして同じ説明を見かけます。
でも、これは半分だけ本当です。
正確には、担当するケアマネと事業所が変わらない、という意味です。要支援のときも要介護になってからも、同じ僕が担当し続けられる。利用者さんにとって、これは確かに大きなメリットです。
ただし、契約そのものは巻き直しが発生します。介護予防支援と居宅介護支援は、制度上は別の契約だからです。僕自身、担当していた要支援の方が要介護に移行して、契約を結び直したことは何度もあります。
とはいえ、身構えるほどのことではありません。再契約にかかるのは30分から1時間ほど。しかも、あらためて説明することはほとんどありません。すでに信頼関係のある方に、「契約の形が変わります」と目的をお伝えするだけです。「手間がゼロになる」わけではないけれど、「重い手間が残る」わけでもない——これが実際のところです。
違い② 「情報提供義務の手間」は、2年でゼロ回だった
直接契約の介護予防支援費が472単位と、委託より高く設定されている理由をご存じでしょうか。
実は、この上乗せ分は「市町村への情報提供義務」に伴う手間やコストを評価したものとされています。指定を受けた居宅は、市町村から求められれば、介護予防サービス計画の実施状況などを報告する義務がある。その負担への対価、という建て付けです。
「義務」と聞くと身構えますよね。僕も最初はそうでした。でも、実際はどうだったか。
2年間で、僕の事務所に市町村から情報提供を求められたことは、一度もありません。
一度だけ、地域包括支援センターから「ある利用者さんのケアプランを提出してほしい。介護保険課から求められたので」という連絡があったことはあります。でも、それも僕の事務所宛ての話ではありませんでした。
条文上は確かに義務です。「求められれば応じる」必要はあります。でも実態としては、定期的に何かを報告し続けるようなものではない。「情報提供義務が重そうだから指定を見送る」という判断があるとしたら、少なくとも僕の2年間の経験では、その心配は当たりませんでした。
唯一の落とし穴:毎月25日の「届出」を忘れると給付管理できない
ここまで「指定を取るべき」という話をしてきました。最後に、2年やってきて「これだけは気をつけないと危ない」と感じた落とし穴を、ひとつだけ共有します。誤算というより、うっかり忘れそうになる手間です。
それは、給付管理先が変わるときの「届出」です。
さっき説明したとおり、要支援の方は、使うサービスによって担当が「介護予防支援(うちが直接)」と「介護予防ケアマネジメント(包括から委託)」を行き来します。この切り替えが起きると、給付管理をする事業所が変わります。そのたびに「介護予防サービス計画作成・介護予防ケアマネジメント依頼(変更)届出書」を提出しなければなりません。
問題は、この届出に締切があることです。僕の自治体では、毎月25日まで。この日までに提出すれば、その月の給付管理先として登録されます。
もし26日に提出したら、どうなるか。その月の登録が間に合わず、翌月扱い(月遅れ)になります。うっかり提出そのものを忘れたら、給付管理が保留になってしまう。そうなると、関係する各サービス事業所にも「今月は保留になりました」とお知らせしなければならず、地味に手間がかかります。
直接契約は、包括とのやり取りが減るぶん、給付管理の責任が自分の事業所に集約されます。それ自体はメリットなのですが、裏を返せば「届出の締切管理も自分でやる」ということ。ここだけは、カレンダーやリマインダーで仕組み化しておくことを強くおすすめします。
なお、この締切日(僕の自治体では25日)も保険者によって異なります。あなたの地域のルールは、必ず確認してください。
結論:僕はすべての居宅に、指定の取得をすすめます
長くなったので、2年回した実感をまとめます。
介護予防支援の指定は、最初の契約手続きこそ手間ですが、その手間は一回きりです。一方で、報酬は上がり、包括とのやり取りコストはずっと無くなり、要支援の段階から利用者さんに伴走できる。コスト減とメリットは、その後ずっと続きます。
世の中の解説記事が言う「契約し直す手間がなくなる」は半分だけ本当で、巻き直しは発生します。でも30分から1時間の話です。「情報提供義務が重そう」という不安も、僕の2年間ではゼロ回でした。唯一気をつけるべきは、給付管理先が変わるときの届出の締切。それさえ仕組み化すれば、指定を取らない理由は見当たりません。
特に、これから独立を考えている方には、指定の取得を前提に事業所設計をすることをおすすめします。要支援を直接担当できるかどうかは、一人ケアマネの事業所にとって、経営の安定に直結するからです。
ここまで読んで、「そもそも今の職場を続けるべきか」から迷い始めた方もいるかもしれません。指定を取る取らない以前に、働く環境そのものを変えたいなら、情報収集だけでも早めに動くことをおすすめします。
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要支援の利用者さんは、未来のロイヤル顧客です。その入口を、包括に預けたままにするのか、自分の事業所で受けるのか。この記事が、その判断の材料になれば嬉しいです。