実務・ノウハウ系

生活保護の利用者、ケアマネはどこまでやるのか|引き受けたこと・断ったこと・断ったあとに渡した先

※本記事にはプロモーションが含まれます。

「なにか書類が届いた」

担当している利用者から、そんな電話がかかってきたことがあります。何の書類かを聞いても、本人にはわかりません。5分ほど話しても要領を得ないので、こちらから役所に電話をして、ようやくそれが障害福祉サービスの受給者証の更新案内だとわかりました。

その方は生活保護を受けていて、身寄りがなく、ひとり暮らしです。一人で外出することも難しく、認知機能も落ちていて、更新手続きが何のことかを理解できない状態でした。

僕が担当している約60人のうち、生活保護を受けていて身寄りのない方は3〜4人です。20人に1人ほどの割合で、そう多くはありません。それでもこの3〜4人には、ほかの利用者では起きない連絡と事務が確実に増えます。

増えるのは事務だけではありません。「これ、ケアマネがやることなんだろうか」と迷う場面も出てきます。しかも頼んでくるのは家族ではなく、本人と役所です。

この記事では、生活保護の利用者を担当したときに僕が引き受けていること、引き受けていないこと、そして断ったあとに誰へ渡してきたかを、実際にあったやり取りをもとに書きます。制度の解説ではなく、担当ケアマネとしての線の引き方の話です。

60人に3〜4人。生活保護の利用者を担当すると、何が増えるのか

まず、事務の話からします。

担当している中で生活保護を受けている方は、だいたい3〜4人です。年によって前後しますが、この数から大きく動いたことはありません。ほとんどが独居の方です。

介護保険証にあたるものが、ない

生活保護の方の介護サービス費は、介護扶助として支給されます。給付の中身そのものは介護保険と変わりません。厚生労働省の運営要領でも、介護扶助の介護方針と介護報酬は介護保険の例によるとされていて、原則として同じ範囲・同じ水準のサービスが給付されます。

違うのは、証明書のほうです。介護保険には被保険者証がありますが、介護扶助には保険証にあたるものがありません。代わりに、福祉事務所が毎月「介護券」を発行します。事業所はこの介護券で資格を確認して、請求をします。

ケアマネの提出が遅れると、事業所の請求が止まる

ここがケアマネの実務に直結します。

介護券は勝手に出てくるものではありません。ケアマネが生活保護の担当課へ出すケアプラン(サービス利用票など)が起点になります。自治体によっては、毎月、翌月分の利用票を出す運用になっています。

つまり、こういう連鎖が起きます。

  • ケアマネの提出書類が遅れる
  • 介護券の発行が遅れる
  • サービスを提供した事業所が、請求できない

実際にこれをやってしまったことが何度かあります。3月分の提出が遅れて、関係する事業所にお詫びをしたうえで月遅れ請求をお願いしました。別の年には、3月分と4月分をまとめて出す事態になっています。

担当60人のうち3〜4人だけの手続きなので、どうしても漏れやすいんです。原因は、メールが送信できていなかった、というような単純なものでした。

自治体で運用が違う。しかも、それは教えてもらえない

もうひとつ、引っかかったことがあります。

いまの市では、訪問診療先の情報を利用票に記載しないと、介護券が発行されません。以前に働いていた市にはこの運用がなく、記載を落としたまま何ヶ月か走っていました。気づいたのは、訪問診療先からの連絡がきっかけです。

介護扶助の枠組み自体は全国共通ですが、書類の出し方や記載事項の細かいところは、保険者や福祉事務所によって違います。調べても出てこない部分なので、担当のケースワーカーに一度確認しておくのが確実です。

参考:厚生労働省「生活保護法による介護扶助の運営要領について」(平成12年3月31日社援第825号)

引き受けていること:介護保険の中は、基本的に全部やる

やっていることから書きます。

介護保険に関わる手続きは、基本的にすべて引き受けます。

  • 要介護認定の新規申請
  • 区分変更の申請
  • 更新申請
  • ケアプランの作成と提出
  • サービス利用票の提出

身寄りがなく、書類の意味を理解することが難しい方であっても、ここで迷ったことはありません。介護保険の申請の代行は居宅介護支援の業務の中にあるものですし、生活保護を受けているかどうかで扱いを変える理由もないからです。

冒頭の受給者証の件も、介護保険にあたる部分だけは引き受けています。その方が引き続き障害福祉のサービスを使えるように、ケアプランへの記載と役所への提出まではやりました。ここはケアマネの担当業務です。

引き受けていないこと:断るときの線は、2本あります

1本目:介護保険の外は、やらない

受給者証の更新申請そのものは、断りました。

断ると決めたあとで、障害福祉課へ電話をしています。本人に聞いても何の書類かわからない以上、まず何が届いたのかを確認しないと話が進まなかったからです。そのうえで、更新の手続きはこちらではできないと伝えました。

やり取りは、だいたいこんな流れでした。

「できない、というのはなぜなんでしょうか」

「介護保険の業務ではないからです」

「介護保険に関する業務以外の申請のお手伝いは、ケアマネジャーの仕事ではない、ということですか」

「そうですね」

そして最後に、こう確認されました。

「じゃあ、そういった手続きに関しては、ご自身はやらないというご判断をされているんですね」

この一言に、この仕事の苦しさが詰まっていると思います。制度の管轄の話をしたつもりが、個人の姿勢の問題として受け取られる。断った理由は「やりたくないから」ではなく「ケアマネの業務ではないから」なのに、その差は電話口では伝わりません。

それでも僕はここを譲歩しません。一度引き受ければ本来の担当業務を圧迫しますし、世間にも「ケアマネがやってくれる」という認知が広がってしまうからです。障害福祉の申請を代行できるのなら、ほかの手続きも全部ケアマネが手伝えるという理解になります。電話でも、そう説明しました。

だからこそ、契約のときに業務の範囲を口で説明しておくことに意味があります。

ケアマネの契約で何を説明する?必ず口頭で話す5項目と「2時間」の中身【独立3年目の実録】

生活保護の申請そのものも、窓口を教えるところまで

別のケースです。身寄りのない男性で、手持ちの資金が2年ほどで底をつきそうな方がいました。

生活保護の申請を検討したほうがいい、という説明をしました。本人は「どうしたらいいかわからない」と言うので、市役所の担当課の連絡先を伝えています。すると「話が難しいから、わからないかもしれない」と返ってきました。

ここで同情して介入するのは、業務の外だと思っています。

勧めるのは、メモを取ることと、わからなければ何度でも役所の人に聞き直すことです。代わりに電話をかけるのではなく、本人が電話をかけられるようにする。手をかけるとしたら、そちらだと考えています。

こうした判断のよりどころにしているのは、運営基準(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準)に書かれているかどうかです。僕らが「赤本」と呼んでいる、あの指定基準編のことです。書かれていないことは、やらない。

ここは正確に言っておきます。運営基準に「やってはいけない」と書いてあるわけではありませんし、書いていないことは禁止だ、という制度の話でもありません。あくまで、自分の業務の範囲を決めるときの目安にしているという話です。

2本目:お金に、一人では触れない

もう1本、介護保険の中か外かに関係なく引いている線があります。お金です。

以前、銀行からお金を引き出してほしいと頼まれたことがあります。長男と同居していて、ネグレクトを受けていた男性の利用者でした。地域包括支援センターが介入していたケースです。

このとき僕は、断りませんでした。ただし一人では動きませんでした。預貯金を引き出すときは、必ず地域包括の職員と一緒に行きました。

お金を扱う場面で怖いのは、あとから「盗った・盗られた」の話になることです。事実がどうであれ、一人で通帳とお金に触れていたという状況そのものが、自分を守れなくします。

ただ、これは会社員時代の話です。同行してくれる相手がいたから、条件つきで引き受けることができました。一人で事業所をやっている今は、そもそも同行者がいません。だから銀行からの引き出しの相談は、受けないことにしています。やるかやらないかを決めているのは、頼まれた内容ではなく、一人かどうかのほうです。

それでも防げないことはあります。サービスを提供したあとに利用者が亡くなり、口座が凍結されて、事業所が本人負担分を回収できなくなったことがありました。誰が悪いという話ではなく、身寄りのない方を担当していれば、こういうことは起きます。

ケアマネジャーが頼まれごとを引き受けるかを判断するフロー図。介護保険の中の手続きか、お金に一人で関わることか、の2つで分ける

ここまでの2本を、1枚にまとめるとこうなります。

なお、相手が家族で、線を引いたあとに何が起きるかについては、別の記事にまとめています。

家族からのクレームにどこまで応じるか|ケアマネが線を引くときの説明トーク実例

断ったあと、誰に渡すか

ここまでが、断った話です。ただ、断って電話を切ったわけではありません。

断ることと、放り出すことは違う

このとき役所に伝えたのは、「できない」だけではありませんでした。本人が書類の意味を理解できないこと、一人で動くことが難しいこと。そちらの状態を伝えています。

すると担当者のほうから、本人に直接連絡を取って、記入すべき箇所を電話で案内する、という話が出てきました。

こちらから頼んだわけではありません。本人の状態が伝わったことで、役所が自分の持ち場でできることを出してきた、という順番です。

断ったことで、この人の手続きが止まったわけではありません。止まらない道筋のほうを、断るのと同じ電話の中で作っています。

渡すときに伝えるのは、「できないこと」ではなく「本人の状態」

役所に「ケアマネの業務ではありません」とだけ伝えても、向こうは動けません。動く材料がないからです。

伝えるべきなのは、本人がいまどういう状態で、何ができないのかのほうです。「業務外です」は断りの言葉ですが、「本人は書類の意味がわかりません」は相手が動くための材料になります。同じ電話でも、渡しているものが違います。

生活保護の申請を検討していた男性のときも、同じ考え方です。窓口の連絡先を伝えて終わりではなく、メモを取ること、何度でも聞き直していいことを勧めました。渡す先と、そこにたどり着く方法をセットにする。そこまではケアマネの仕事だと思っています。

それでも、渡し先が見つからないことがあります

ここからは、うまくいかなかった話です。

冒頭の方について、金銭管理と手続きの支援をどこかに引き受けてもらえないか、ずっと探してきました。結果から言うと、まだ見つかっていません。

社会福祉協議会:契約当日に、本人が断った

まず動いたのは、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業でした。福祉サービスの利用手続きや日常の金銭管理を支援してくれる仕組みで、この方の状況にはよく合います。

説明の場には、生活保護のケースワーカーにも同席してもらいました。話は前に進み、契約の日程まで決まりました。

そして契約の当日、本人が「やっぱりやめる」と言いました。

成年後見:チェックリストに当てはまらない

並行して、地域包括支援センターにも相談しています。成年後見制度につなげられないかという相談です。

ここでも止まりました。判断能力に課題があることは誰の目にも明らかなのに、後見につなぐための要件には当てはまらない、という結論でした。

判断能力が十分ではない。でも、制度の入口に立てるほどではない。この幅に入ってしまう人が、実際にいます。

いまつながっているのは、友人の月1回の訪問

では現在どうなっているかというと、その方には月に1回訪ねてくれる友人がいます。制度ではありません。

ただ、友人にできるのは様子を見に行くことまでです。金銭管理や手続きの代行を頼めるわけではありません。探していた受け皿は、いまも空いたままです。

入院時の身元保証は、断っています

身寄りのない方を担当していると、入院の場面で身元保証人を求められることがあります。ここは断っています。

利用者が入院したらケアマネは何をする?連携シートを「当日30分」で送る僕の段取りを全部話します

認定調査は、自分でやらない

もうひとつ、渡し先がないときほど守っていることがあります。

認定調査員も兼務しているので、依頼を受ければ自分で調査に入ることもできます。ただし身寄りがなく認知機能が落ちている自分の担当利用者については、自分では調査せず、市に依頼しています。

担当ケアマネと調査員を同じ人間が兼ねると、見立てが調査結果に寄る可能性が残ります。家族がいれば別の目が入りますが、身寄りのない方の場合、自分の判断を止めてくれる人がいません。だから、判断が偏りうる場面のほうを先に外しておきます。

渡し先が見つからないときに増えるのは、仕事の量ではなく、一人で決めることの量です。そこを増やさないようにしています。

それでも、ケアマネが肩代わりしなくていい

ここまで読んで、「じゃあ誰もやらなかったらどうするのか」と思われたかもしれません。その答えを、最近あったことで書きます。

担当していた身寄りのない方が、病院で亡くなりました。

そのあと動いたのは、役所でした。生活保護の担当課だったと記憶しています。手続きの詳細をこちらで把握しているわけではありません。把握していないというのが、そのまま答えになっています。

ここでケアマネが何かしなくちゃいけないかというと、全くそんなことはありません。

身寄りのない方が亡くなったあとの流れについては、看取りの記事で終結までの型を書いています。

在宅看取り、ケアマネは何をする?|余命1週間の連絡から、お看取り後の終結まで

制度のほうも、同じ方向を向き始めています

2026年6月、社会福祉法などの改正法が成立しました。

頼れる身寄りがいない高齢者に対して、日常生活の支援、入院や入所の手続き、死後事務までを支援する事業を、第二種社会福祉事業として位置づける内容です。施行は2028年6月までとされています。

拡充されるのは、福祉サービス利用援助事業。冒頭の方が契約当日に断った、あの日常生活自立支援事業の枠組みです。対象に「身寄りがいないこと」が加わり、扱える事務も、入院手続きや医療費の支払い、葬儀や家財処分の契約まで広がります。

この改正が議論された背景には、こうした事務をいまはケアマネジャーが公的サービスの範囲を越えて無報酬で引き受けている、という現状認識があったと報じられています。

つまり、僕らがここで線を引くのは、冷たいからではありません。本来この仕事は、ケアマネの担当ではないという整理が、制度の側でも進んでいます。

とはいえ、動き出すのは2028年です。それまでの間は、目の前の1件を自分で判断するしかありません。

参考:厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要」

まとめ:どこまでやるかは、3つに分けて考える

生活保護の利用者を担当したときの整理を、3つにまとめます。

  • やること:介護保険に関わる手続きはすべて。加えて、利用票の提出は遅れると事業所の請求が止まるので、月次の段取りに組み込んでおく
  • やらないこと:介護保険の外にある申請の代行。そして、お金に一人で関わること
  • 断ったあと:渡し先に「できないこと」ではなく「本人の状態」を伝える。渡し先が見つからなくても、抱え直さない

断るのは、気持ちのいい仕事ではありません。電話口で「ご自身はやらないというご判断なんですね」と言われれば、こちらにも残るものがあります。

それでも、範囲を決めておかないと続きません。60人を担当していて、その中の3〜4人にだけ無制限に応じることは、物理的にできないからです。

担当を持ちはじめたばかりで、何をどこまでやるのか全体がつかめないという方は、業務の地図のほうから見てもらうのが早いと思います。

新人ケアマネの業務マニュアル|「何から覚える?」に実務記事10本の地図で答えます

ひとりで抱えるかどうかは、職場の構造で決まる

最後に、この記事で何度か出てきたことに触れておきます。

お金の引き出しを条件つきで引き受けられたのは、同行してくれる相手がいたからでした。判断に迷ったときに相談できるかどうかも、社協や包括と話が通じるかどうかも、自分の努力ではなく、いる場所で決まります。

断りきれずに抱え込んでいる自覚があるなら、断り方を工夫する前に、いまの職場でそれが可能なのかを見たほうが早いことがあります。求人を眺めるだけでも、いまの環境が普通なのかどうかの目安になります。

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